作成日
平成19年11月7日

情報保障は利益と不利益の問題ではない

10月31日の毎日新聞(yahoo!ニュース)に「<落語家・夢之助さん>「手話通訳気が散る」島根の敬老会で」という記事がありまして、夢之助さんは暴言を吐き、で、主催者側は事前調整を行っておらず、手話通訳者もそのまま立ち続けたのはちょっと問題かな…という話なんだけど。

というわけなのですが、夢之助さんは、聴覚障害者を侮辱する以前に、落語という文化を侮辱しています。手話を落語に完全に変換できないのは、英語を日本語に完全に変換できないのと全く同じで、手話は聴覚障害者が使うとかそういうものではなくて、一つの言語、だということ。落語家という言葉を扱う仕事をする人間として、恥ずかしい話です。

しかし、主催者側にも、情報保障を用意し、手話通訳者を使った、というような姿勢が見受けられます。お互いに調整しあうくらいのことはやるべき、なんだけど、やっていない。

情報保障というのは、聴覚障害者に対して手話で話している内容を通訳したり、視覚障害者に対して点字文書を提供したり、お年寄りにわかる言葉で説明したり、情報弱者といわれる人たちに、代替手段をもって健常者と同様の情報を伝達する、という意味。

で、第一に大事なのは、それを通訳する人間が必要だということ。

英語とか他言語への通訳・翻訳と同じで、高度な技術が必要、手話通訳だと3年かかって養成所行って、やっと一通りの基礎が身につくという感じで、それを必要とするのは、世間全体から見るとやはり少数で、コストが高くなってしまう。

少数の障害者に対して公共サービスを提供するべきなのか、という疑問が先立ちがちだけど、障害者をサポートする役の人たちが活躍できる場面を作っていくことも、必要だというわけです。

次に大事なのは、情報保障を受けられさえすればいい、という問題ではないということです。

本学で行われる行事は、口話+手話+要約筆記で、パワーポイントによる図示があったり、事前事後にプリントが回ってくることもあるわけで。

これだけあるとほぼ確実に理解できる(完全ではない)わけだけど、どれかだけを見続けていると、肝心なところを取りのがしてしまう、全体で把握しなければいけない。手話通訳だけを見てたら意味ないというわけで。

アンテナの向きを変えながら話を聞かなければいけない。けども、落語とか漫才は早口だし、独特の言い回しはあるわで、たぶん本学の情報保障レベルでも、あれだけの情報量を聴覚障害者が受け取るには、正直、限界はあると思う。手話通訳をやる人にとっても。

じゃあ、情報保障を受けられさえすればいいのか?というと、そうではない。本学の場合は、授業はほぼ全てにおいて情報保障が受けられる状況なのだけれども、それは、情報保障を受けられる、ということを建前としているので、他大学との単位互換を表向きにしづらい、という問題も来たしているのではないか、と思う(学長ドノの気質からして、「自分達で交渉しなさい」という返事が返ってくるかもしれんが)。サービスを受けられる、ということを保障される、ということは、かえって自由な行き来を制限してしまう、ということもあるかもしれない。

というわけで、誰が利益を受けられて、受けられない、という話に留めては、また今後も誤解が生じてしまいます。「公共サービス」として手話通訳やら障害者向けのサービスを提供するだけ、つまり提供する側が「障害者団体とか人権団体とかにうるさく言われるからなあ」という受動的な姿勢で居続けたので、今回のようなことになったのです。

情報保障の限界を考えたとき、自分たちがどこまで対応できるのか、そういうことまで考えていかなければいけない。でないと、お互いがすれちがってしまうことになります。

参考:記事全文

島根県安来市民会館で9月17日に開かれた市主催の敬老会で、独演会をしていた落語家の三笑亭夢之助さんが、舞台に立つ手話通訳者に「気が散る」などと退場を求める発言をしていたことが分かった。通訳は舞台の下で続けられたが、同県ろうあ連盟は「聞こえない人に対する侮辱」と夢之助さんや市に抗議。夢之助さんは謝罪し、市も当日来場していた聴覚障害者3人に直接謝罪した。

市によると、敬老会には今年70歳となるお年寄りや市民計247人が参加。大きな講演会では手話通訳者をつけているといい、この日も3人を配置していた。

ところが、市は夢之助さん側に通訳がつくことを説明しておらず、独演会開始後5分ほど過ぎたころ、夢之助さんが「落語は話し言葉でするもので、手話に変えられるものではない」と発言。更に「この会場は聞こえる方が大半ですよね。手話の方がおられると気が散りますし、皆さんも散りますよね」と話し、会場からは笑い声が聞こえたという。

その後も「どうにかなりませんかね」「皆さんが良いとおっしゃるなら構いませんが。どうなんでしょうね」などと退場を求める発言を続けた。通訳の女性は主催者側に促され、舞台の下に降りて手話を続けた。

聴覚障害者から知らされた県ろうあ連盟は夢之助さんや市、落語芸術協会に抗議文を送付。夢之助さん側は謝罪文で、発言の真意について「気も散漫になって話を間違えることでお客様に迷惑をかけてはいけないので、手話の方に、私の横でなく、後ろに立つか、座ってくれるのか……との思いで声をかけた」と説明したという。取材に対し夢之助さんのマネジャーは「本人は非常に反省している」と話した。

昨年の敬老会では漫才コンビ「宮川大助・花子」の花子さんが出演したが、手話通訳者は花子さんから「ありがとう」といわれたという。今回参加した聴覚障害者は「手話通訳がつくので夢之助さんの落語を楽しめると期待していたのに」と残念がっていたといい、市も不手際を認め広報11月号に謝罪文を掲載した。【御園生枝里】